私は築地改め豊洲市場の水産荷受会社で働いている。
豊洲市場といえば移転問題が広く知られているが、2016年の11月移転するはずだったのが延期になり、実際に移転したのは2018年の10月11日のことである。
移転延期によって大変な思いをした業者も多くいると思う。
しかし私にとっては大きな幸運だった。
移転延期が決まった年の8月に財務諸表論の試験を受けた。
自己採点したら約7割はできていそうな感じで合格圏内だったが、過信は禁物、用心して9月から財表と簿記論の勉強を並行して行うことにした。
経験したから分かるけど、市場の移転すなわち職場の移転は慣れるまで非常にフラストレーションがたまる。
実際に移転したのは試験合格後の翌年だったから、フラストレーションのたまっている、悪いメンタルで試験勉強せずにすんだのは大きな幸運だったと思っている。
市場と税理士試験と何の関係があるのかと、いぶかしく思う方も多いと思う。
受験の理由は次の機会に譲るとして、仕事と直接関係無いのは明々白々、会社には税理士受験のことは何も話してなかった。
また勤務時間が夜中から昼までのため、いわゆる付き合いで仕事終わりに飲みに行くというのがほとんど無く、退社後に勉強してても誰からも後ろ指を指されることがなかった。
勤務時間そのものが、試験勉強する上で大きな幸運だったのかもしれない。(あと周囲の資格試験に対する無関心も)
財務諸表論は無事に合格でき、翌年からいよいよ簿記論の学習に専念することとなった。
税理士試験は、どういうわけか8月の第一週の火曜から木曜までの三日間で行われる。
各科目の試験実施日と順序も完全に固定されている。
簿記論は火曜日の9時開始と決まっていた。
市場には休市といって水曜日が休みになることが多い。しかし火曜日が休みになることは皆無に等しかった。
税理士試験は普段の仕事とは関係ないし、しかも受験のことは周りにもほとんど話すことが無かった。(興味のある人もいなかった)
試験のために会社を休むとは言いづらかったのである。
そこで私は用事をでっちあげて(親戚の告別式)、会社を一時的に抜け出して試験を受けることにした・・・!
試験会場は早稲田大学だったため、築地市場からだと日比谷線と東西線で約25分くらいだったと思う。
試験当日の行動を事前に頭のなかで何回もシュミレーションして本番に臨んだが、最大の誤算は通勤ラッシュだった。
築地駅から茅場町駅までが超絶混んでいて、更に東西線も激混み状態だった。
九段下駅を過ぎたあたりで空いてきたが、気が狂いそうだった。
当たり前なのだが、試験前の重要と思しき論点の確認なんてできなかった。(考えもしなかった)
早稲田大学に着いた時点でヘロヘロだったが、自分の席を確認したあと試験開始までやっていたのは、実は仕事だった。
教室の外のホールで、携帯電話と受発注表をもって商品の受注と発注を行ったのである。
周りの受験生が異様に冷たい目で私を見ていたが、そんなこと気にする余裕もなかった。
やがて試験が近づくと、一部の取引先にこれから告別式だから電話が通じなくなるとメールを打って席につくことにした。
着席したら嬉しくて笑いがこみ上げてきてしまった。平日のこの時間帯に仕事しなくていいのである! いやぁ素晴らしいことだなぁと悦に浸りながら試験に臨んだ。
こうして振り返ってみると、最低最悪のコンディションで試験を受けたわけだが、一つだけ良いことがあった。
すでに相当アタマに血がのぼっていたので、余計な事を考えなかったのである。
例えば分からない問題があってもくよくよせず、できるところを一生懸命解くようにしたのである。
合格できたのは、このやり方が奏功したからだと思っている。
試験終了後、速攻で会社に戻ることにしたが、途中の茅場町駅でも試験前にやりそこねた受発注をすることにした。
ベンチに座って携帯で電話していると、夏休みらしき小学生たちに白い目で見られてしまった。
私は言ってやりたかった。
「理不尽なことでもやらなきゃならないことがある。それが大人である」と。
無事に試験を終えて築地市場に帰ってこれたときは心からホッとした。
その年の12月、私は簿記論に合格し同時に官報合格も果たすことができた。
合格証書を郵便局で受け取ったときは、真剣に興奮してしばらくの間は夢遊病者状態だった。
私の受験はいい加減なものだったと思う。
それでも「為せば成る」だ。
やってできないことは無いと感じている。
現在のコロナ騒動で専門学校は休校状態だし受験生は本当に精神的にキツいと思う。
でも私でも何とかなったのだ。
受験生の皆さまが良い結果を得られること期待しております。