簿記1級に取り組んでたとき、工業簿記は非常に苦戦した。とにかく細かい。そして計算の構造上、問題の最初で間違えると連鎖的に最後までダメになるが、ツボにはまれば全問正解も夢ではない、まさにall or nothingの世界だった。
工業簿記・原価計算のテキストは3冊あったが、その1冊目で最初に私の前に立ちはだかったのが複数基準配賦法である。
ある製品は、工場の製造ライン第1工程の切削部門、第2工程の組立部門を経由して誕生する。
これらの工程で製品をつくるための材料(直接材料費)と作業員の労働力(直接労務費)とが必要になるが、当然これだけでは製品は完成しない。メインの製造ラインをサポートする補助部門が必要となる。
その補助部門は、動力部門・修繕部門・事務部門の3つであるが、これらで発生する費用(製造間接費)を製造ラインでつくられる製品に配賦(割り振り)して、最終的な製品の単価を算出する。各補助部門ごとの費用を変動費と固定費に区分して、それぞれ異なる基準で製造ラインに配賦(割り振り)する。これが複数基準配賦法である。
配賦の際は、実は、実際に発生した費用ではなく、企業が事前に考えた予算を割り当てるようにする。実際の費用を測定しようとすると時間がかかりすぎるのと、漫然と発生した費用を割り振るのは利益の最大化を目指す企業活動にそぐわないからだ。
予算と実績の差異を把握して改善点を見出すのである。
配賦方法は、変動費は用役消費量の割合(各部門の補助部門の利用度を基準とする)、固定費は用役消費能力の割合(各部門の補助部門の最大利用量を基準とする。固定費は製造ラインの稼働状況にかかわらず変わらないからである。)
複雑な配賦計算を終えたら、今度は実際発生学との差異を把握・分析して、各部門の成果を判定するのである。
最初は計算に非常に時間がかかり、しばしばイヤになったものだ。ただ問題の答えは端数の出ないきれいな数値であることが多いので、問題を解いて正解したときは快感そのものだった。
最終的には商業簿記より得点できるようになり、工業簿記は本試験では満点をとれたのである。
合格証書が郵送されたときは非常に嬉しくて、街並みがキラキラして見えたものだ!