プロジェクトマネジメントは、PMBOK(Project Management Body Of Knowledge)(ピンボック)という、1996年にアメリカのプロジェクトマネジメント協会により公表された知識体系としてまとめられている。
その知識エリアは10のエリアに分類されている。
①統合マネジメント
②ステークホルダマネジメント
③スコープマネジメント
④タイムマネジメント
⑤コストマネジメント
⑥品質マネジメント
⑦人的資源マネジメント
⑧コミュニケーションマネジメント
⑨リスクマネジメント
⑩調達マネジメント
以上の10分類から構成されているが、前回で①~④を概観した。
また、プロジェクトをどの段階で実施するかという観点から次の5つのプロセスに分類している。
⒈立上げのプロセス
⒉計画のプロセス
⒊実行のプロセス
⒋監視コントロールのプロセス
⒌終結のプロセス
知識分類が縦軸ならプロセスは横軸においてマトリクスで表現できる。
今回は知識エリアの⑤~⑥を観てみたい。
プロジェクトコストマネジメント
プロジェクトの予算と実績を管理する。
コストの見積もり、コストの予算化、コストのコントロールの3段階のプロセスより構成される。
コストの見積もりでは、プロジェクト遂行のための必要なコストの見積もり作業を行う。
コストの予算化では、コストのベースライン(基準値)が設定される。
コストのコントロールで、コストの予算実行の管理をする。
・アーンドバリュー法(EVM:Earned Value Management)
アーンドバリュー法とは、プロジェクトの進捗とコストを金銭価値に置き換えて評価する手法である。
これを実現するために、次の3つの指標を用いる。
*PV(Planned Value;計画価値)
評価時点までに完成を予定してた成果物の金銭的価値
*AC(Actual Cost;実コスト)
評価時点までに実際に要した費用
*EV(Earned Value;出来高価値)
評価時点までに実際に完成した成果物の金銭的価値
ここで金銭的価値とは、必ずしも金額とは限らず、仕様書の枚数やプログラムのステップ数、工数(人月など)のような金銭的価値に換算可能な指標も用いられる。
具体例が無いと分かりづらいので挙げてみる。
作業単価が3万円/日のエンジニアが3人で10日間かけて60枚の仕様書を行うアクティビティがあるとして、1日当たり6枚の仕様書が作成される。
1人のエンジニアは1日2枚の仕様書を作成するわけだ。
すると仕様書1枚当たりの金銭的価値は1.5万円となる。
5日目に調査した結果、24枚の仕様書が完成してたとする。
計画では5日目終了時点では6枚/日×5日=30枚の仕様書が完成予定なので、
PV(計画価値)=30枚×1.5万円/枚=45万円
EV(出来高価値)=24枚×1.5万円/枚=36万円
EVの計算には、完成した成果物の金銭的価値の単価は計画時のものが用いられ、実際にどれだけコストがかかったかは考慮しない。
また、計画では3人で作業を行うはずであったが、実際には2人しか作業できなかったとする。
この場合、
AC(実コスト)=3万円×5日×2人=30万円
指標を算出してそれで終わりでは意味がない。
指標は評価され、良い悪いを判定しないといけないのである。
アーンドバリュー法では、進捗やコストの状況を評価するための指標として、SV(Schedule Variance:スケジュール差異、SPI(Schedule Performance Index:スケジュール効率指標)、CV(Cost Variance:コスト差異)、CPI(cost Performance Index:コスト効率指標)の4つを用いる。
評価対象 | 指標 | 算出式 | 評価方法 |
進捗 | SV | SV=EV-PV | SVが正:予定より進んでる SVが0:予定通り SVが負:予定より遅れてる |
SPI | SPI=EV÷PV | SPIが1より大きい:予定より進んでる SPIが1:予定通り SPIが1より小さい:予定より遅れてる | |
コスト | CV | CV=EV-AC | CVが正:予定より削減してる CVが0:予定通り CVが負:予定より超過してる |
CPI | CPI=EV÷AC | CPIが1より大きい:予定より削減してる CPIが1:予定通り CPIが1より小さい:予定より超過してる |
図を観て一目瞭然だが、計算にEVが必須である。
上図を更にまとめると以下の通り。
遅れ、超過 | 計画通り | 進み、削減 | |
SV ,CV | 0より小 | 0 | 0より大 |
SPI,CPI | 1より小 | 1 | 1より大 |
各指標の例を数字で挙げてみる。
SV 36-45=9 予定より成果物が9万円少ない
SPI 36÷45=0.8 予定の80%しか進捗が進んでいない
CV 36-30=6 予定より3万円のコスト削減をしてる
CPI 36÷30=1.2 予定より1.2倍、生産性が高い
(予定の1/1.2=83.3%のコスト使用)
アーンドバリュー法の各指標をグラフで示すと以下の通り。
図には表記がないが、黄緑線ACが更に右に伸びていった先がEAC(Estimate At Completion:完成時総コスト見積もり)といって、計測時点までの実コストに基づいたプロジェクト完了時の総コスト見積もりである。
赤線PVの伸びた先は、BAC(Budget At Completion:完成時総見積もり)といって、プロジェクト完了時点で完成予定の成果物の価値を示し、PVの累積値に等しい。
仮に評価時点のコスト効率がこのまま続くと予測される場合、プロジェクト完了時点でのEVはBACに等しくなる。
プロジェクト完了時点でのCPIは、BAC÷EACとなる。よって、
BAC÷EAC=CPI → EAC=BAC÷CPI=BAC×AC÷EV
という計算式が成り立つ。
いろいろ小難しい単語が登場してきたがポイントをまとめたい。
・SVとSPIは進捗を評価。
・CVとCPIはコストを評価。
・差異(SV,CV)は引き算、効率指数(SPI,CPI)は割り算を使う。
・差異なら0、効率指数なら1が基準値。
・基準値より大きいほど望ましく、小さいほど望ましくない。
プロジェクト品質マネジメント
プロジェクトで生み出される成果物の品質やプロジェクトマネジメント自体の品質を管理することである。
品質方針、品質目標、品質に対する責任を決定する活動から構成される。
プロジェクトや製品の品質を分析する手法としてQC七つ道具などが挙げられる。
ここではQC七つ道具について観てみたい。
*特性要因図
問題や結果につながる要因を体系的にまとめた図。
*管理図
許容される上限と下限を設定し、測定値がこれらの範囲内か否かでプロセスが安定しているかどうか、パフォーマンスが予測されたものであるかどうかを判断する。
*フローチャート
プロセスをグラフ化したもの。これにより、どこでどのような品質問題が発生するかを予測しやすくなる。
*チェックシート
品質データを収集しながら、検査を行うための表。
*ヒストグラム
横軸にデータ値の区間、縦軸に出現頻度をとる棒グラフ。数字だけでは読み取れない分布状況を把握できる。
*パレート図
ヒストグラムの一種で、データを発生頻度順に並べ、累積割合の折れ線グラフを付け加えた図。
発生した問題の80%以上が少数の原因で占められているなど、問題となる事象の大半を引き起こす少数の原因を特定するために用いられる。
*散布図(相関図)
二つの変数間にどのような関係(相関)があるかを調べるために作成する。2変数を縦軸・横軸に対応させ、データを打点する。
終わりに
今回でプロジェクトマネジメントの残り全部を概観するつもりだったが、2つの論点で思ったより長くなってしまい、これ以上の記述は冗長になってしまうので、足りない部分は次回に持ち越ししたい。