日本の消費税は、帳簿方式による付加価値税である。
これは簡単にいうと。帳簿上の売上に係る消費税額から仕入れに係る消費税額を控除した残額(マイナスの場合は還付される)を税務署に納付するということである。
この作業は、売上についてはそうでもないが、仕入れに関しては各種の経費も含まれてくるので集計・計算が非常に手間がかかってくる。
小規模な事業者は本来の業務で手一杯でそこまで手が回らないことも十二分に想定される。
小規模な事業者のこのような負担を軽減するために、仕入れに係る消費税額の控除の特例として「簡易課税制度」が設けられた。

| 簡易課税制度の仕組み
事業者が税務署に納付する消費税額は、課税標準に係る消費税額から仕入税額控除等を控除して求めるのが原則である。
課税標準とは、課税対象を金額に換算したものであり、課税標準に係る消費税額とは、それに係る消費税額ということになる。
大雑把にいえば受け取った消費税額だ。
この部分は原則も簡易課税も同じである。
両者が異なるのは仕入税額控除等の部分だ。
つまり支払った消費税額の部分だ。
簡易課税制度においては、課税標準額に係る消費税額から売上に係る対価の返還等に係る消費税額を控除した金額に「みなし仕入率」を乗じたものを仕入税額控除等とする。
売上に係る対価の返還等とは物々しい語句だが、要するに商品やサービスの返品・値引き・割戻しのことで、ネットの金額に「みなし仕入率」を乗じるということである。
みなし仕入率は業種によって異なってくる。
第1種事業 卸売業 みなし仕入率90% | |||
購入した商品の性質・形状を変更しないで、他の「事業者」に販売する事業。 私の勤務する卸売市場の会社はまさにこれに該当する。 | |||
第2種事業 小売業 みなし仕入率80% | |||
購入した商品の性質・形状を変更しないで、「消費者」に販売する事業。町の八百屋さんやサカナ屋さん等が相当。 なお、製造小売業は第3種事業に該当する。 | |||
第3種事業 製造業等 みなし仕入率70% | |||
農業・林業・漁業・鉱業・採石業・砂利採取業・建設業・製造業・製造小売業・電気業・ガス業・熱供給業・水道業(加工賃を受け取って役務提供する事業は第4種事業) | |||
第4種事業 その他事業 みなし仕入率60% | |||
飲食業などが相当する。 第1種・第2種・第3種・第4種・第5種に当てはまらない事業がここにはいる。 | |||
第5種事業 サービス業等 みなし仕入率50% | |||
運輸通信業 飲食業を除くサービス業 金融業 保険業 | |||
第6種事業 サービス業等 みなし仕入率40% | |||
不動産業 |
こうして観察してみると、卸売業はやはり薄利な商売だと周知されていることが分かる。
| みなし仕入率の適用
1種類の事業だけを営む場合は、該当する単一の「みなし仕入率」を適用するだけでよいので簡単である。
控除対象仕入税額=(課税標準額に係る消費税額-売上に係る対価の返還等の金額に係る消費税額)× みなし仕入率
これが2種類以上の事業を営むと以下のようになる。
控除対象仕入税額=(課税標準額に係る消費税額-売上に係る対価の返還等の金額に係る消費税額)×(第1種~第6種までの消費税額にそれぞれ該当するみなし仕入率を乗じた額の合計額/第1種~第6種までの消費税額の合計額)
みなし仕入率の代わりに、各事業別の消費税額に対する各事業別の消費税額に各事業別のみなし仕入率を乗じた額の合計額の割合を採用するということである。
| 簡易課税制度を使える事業者
簡易課税制度は誰でも適用できる制度ではない。
まず消費税納付を免除された「免税事業者」は適用できない。
適用できる事業者は、次の2つの要件を満たしている必要がある。
①基準期間(個人事業者ならその課税期間の前々年、法人なら前々事業年度)の課税売上高(消費税の課税対象となる取引の売上高)が5,000万円以下であること。
月商400万円強なので、やはり小規模な事業者を対象としているといえる。
②適用を受けようとする課税期間開始の日の前日までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄税務署長に提出していることである。
これを提出すると原則2年間の継続適用が要求される。
| 終わりに
消費税納付の負担は付加価値の低い事業ほど低くなっている。
これは所得税や法人税も同様である。
税金を払わなくていいのは幸運のように思えるが、それだけ儲かってないということでもある。
「過ぎたるは猶及ばざるが如し」という格言もあるが、ほどほどに継続的に儲かっているのがベターなのかもしれない。
