個人には所得税が、法人には法人税が課せられるのが、我々の共通認識である。
しかしながら、個人に法人税が、法人に所得税が課せられるケースもあるのだ・・・!
個人に法人税が課せられるケースだが、これは個人が「法人課税信託」の受託者となった場合、その信託から生み出される所得に法人税が課される。
そして法人については、法人の所有する株式から配当金の支払を受けた場合、その配当金に所得税が課されるのである。
今回は、法人の受取配当金について観てみよう。
| 配当金とは
株式会社というのは、人々が資金を出し合って作られた会社である。
人々が資金を提供すなわち出資するのは、何らかの見返りを期待しているからである。
配当というのは、その見返りのことだ。
会社の事業がうまくいって儲けることができ、余ったお金は剰余金という。
この剰余金は、今後の事業に備えて社内に蓄えたり、出資者である株主に配当金として分配するのである。
| 二段階課税の排除
法人が他の法人の株式を所有しているとき、その株式から配当金が得られる。
その得られた配当金は、配当所得として所得税が課される。
これは、一見何も問題の無い処理のように思える。
そんなことはない。実は非常に問題ありだ。
法人の配当というのは、税金を除いた税引「後」当期純利益が原資になる。
「課税後の利益」から配当金は支払われるわけだ。
その法人税が課されて残った利益から生み出される配当金に所得税を課してしまうのは、法人段階で1回、株主段階でもう1回という二段階の課税となってしまう。
この課税の重複を排除するために、受取配当金の益金不算入という制度があるのである。(個人株主の場合は配当控除という制度あり。趣旨は同じ)
益金不算入というのは、法人税申告書別表4で所得計算において減額されるということだ。
それだけ課税される所得が少なくなり、それに税率を掛けて算出される法人税額も低くなるのである。
| 益金不算入のルール
二段階課税を排除するという趣旨なら、いっそのこと法人も個人も配当金非課税にしちゃえば話は早い。
しかし現在の日本は膨大な財政赤字を抱えている。
財政健全化のためにも、非課税にするという選択は無さそうで、法人の場合は、株式等の保有割合によって益金不算入となる割合が決められる。
株式等の保有目的により益金不算入の割合が制限されるわけだ。
株式等保有割合ごとに益金不算入の割合を表示すると・・
株式等保有割合100%(完全子法人株式等) 益金不算入割合=100% | ||
株式等保有割合3分の1超(関連法人株式等) 益金不算入割合=100% ただし借金して株式を買った場合、支払利子を控除する。控除する利子は以下のとおり。 すべての支払利子=(前期末&当期末の関連法人株合計額)÷(前期末&当期末の貸借対照表総資産合計) | ||
株式保有割合5%超3分の1以下(その他の株式等) 益金不算入割合=50% | ||
株式保有割合5%以下(非支配目的株式等) 益金不算入割合=20% |
保有割合が低くなるほど、益金不算入とされる範囲が低くされるのは、投資対象として保有する株式とみなされるからである。
逆に保有割合が大きいということは、別の法人どうしではなく、同じ会社の本店・支店の関係に近くなるため、配当金の支払・受取も内部取引の色彩が濃くなってくるため、益金不算入の範囲を広くしていると思われる。
関連法人株式等で、益金不算入の額から支払利子を除いているのには明確な理由がある。
税法は性悪説だ。
支払利子は損金算入項目で、支払い分だけ所得は減少し納付税額も安くなる。
これを悪用して、借金して株式を買い、そこから得られる「配当金の益金不算入」と「支払利子の損金算入」のダブルで所得を減額して、納付税額を低くすることを警戒してるからである。
| 外国子会社から受け取る配当
現代はグローバル・ビジネスの時代である。
当然のことながら、日本の法人が海外子会社を設立したり、外国の法人と共同出資して現地法人を設立することもある。
その海外の法人からも配当金が支払われるケースがある。
仮に、日本の会社が某外国に子会社をつくり、その国での事業がうまくいき利益が出たとする。
当然その利益に対して某国で課税される。
さてその課税後の利益から親会社に配当するかどうかだが、もし某国の税率が日本のそれより低かったら、配当せずに社内に資金を留保しようとする動機が生まれる。
日本の法人が海外で稼いだ利益が、日本に戻ってこない可能性が生じるのである。
これを防ぐため、海外で獲得した利益を、必要な時期に必要な金額だけ戻すことのできる、外国子会社から受ける配当等の益金不算入という制度ができた。
処理方法は以下のとおり。
「外国子会社」 その外国子会社の発行済株式等の25%以上を保有し(自己株式は除く)、その配当等の額の支払義務の確定日以前6月以上引き続き保有している。 保有割合と保有期間に条件がある。 |
「益金不算入の額」 配当等の額(外国の税金控除前の額面金額)-配当等の額×5% =益金不算入の額(別表4で減算) |
「配当等に課された税金」 損金不算入として、別表4で加算処理(外国税額控除の適用なし) |
配当等の額の5%って何なのかということだが、その配当等を獲得するための費用ということになっている。
| 所得税額控除
法人が受ける配当金は、所得税法の規定により所得税が源泉徴収されてしまう。
この所得税も含めて法人税の課税所得を構成するため、所得税と法人税の二重課税が生じてしまうのだ。
法人は源泉徴収された所得税を法人税の前払であるととらえて、源泉徴収された所得税額を法人税額から控除するのである。
この作業は、別表4でいったん源泉徴収税額を加算したあと、別表1で減算するというややこしい手順で行う。
これは所得税も法人税所得の一部として課税所得を構成させたあと、改めて税額計算の別表1で減額するということなのである。
別表4は所得計算、別表1は税額計算と役割が違うからである。
源泉徴収された所得税を、ただ足して引くだけなら話はシンプルで楽である。
しかし現実はそんな甘くはない(汗)
配当金の元本である株式等の所有期間に応じ、源泉徴収税額を期間按分しないといけないのである。
所得税を払ったにもかかわらず、全額を控除できないということだ。
具体例を挙げてみよう。
・計算期間1年 株式所有期間4か月 5,000株保有
・受取配当金 300,000円 所得税 60,000円
60,000円×5,000株/5,000株×4月/12月=20,000円
なんと6万円払っても2万円しか控除できない!
これは、前の株式所有者の分もあなたが負担してね、配当金は前所有者は受け取ってないからいいでしょ、ということなのである。
| 終わりに
配当所得は不労所得だ。
ただ株式を保有してるだけでキャッシュを得ることができる。
元本である株式の所有数が多ければ多いほど配当所得もデカくなる。
企業の損益計算書を観察して、営業外収益の受取配当金の額が大きいのは、例えば現在のコロナ不況において本業が不振でも、ある程度の安定したキャッシュフローのある企業といえる。
損益計算書の受取配当金にも要注目である。