国がある特定の資産の購入を促進する場合に「国庫補助金制度」を用意することがある。
国庫補助金とは、国からの補助金で使い道を決められたお金である。
当然のことながら遊興に使用など論外。
その国庫補助金の交付を受けて、交付目的に適合した資産を取得または改良した場合、かつ、その補助金を返さなくていいということになった場合、圧縮記帳という特殊な処理を行うことができる。
この処理を行うと課税の繰延べ(課税の先送り)の効果が得られる。
要するに、補助金を使ってある資産を購入してくれたら、その補助金の分には税金をかけないけど、翌期以降にその資産を使用してお金を稼ぎ税金を多く払ってね、ということだ。
今回は、いかにも法人税といった処理「圧縮記帳」を観てみよう。

| 圧縮記帳制度
法人税額の算出にあたって、国等からの補助金や火災などにより得られた保険金の保険差益の部分も「課税の対象」となり、課税所得を構成する。
しかし機械などを買う目的で国から補助金を取得しても、これに税金を課してしまうと補助金そのものが減ってしまい、肝心の機械を買うことができなくしまう。本末転倒だということだ。
そこで考え出された課税技術が、補助金や保険差益を「収益に計上しながらも」(益金算入しながらも)それに対する課税を先送りしようという「圧縮記帳」という方法なのである。
| 直接減額方式
国から国庫補助金をもらい収益として計上した場合、その補助金で取得した機械については、収益計上した国庫補助金と同額だけ帳簿価額を減額し損金の額に算入するのを認める制度である。
これを行うと、もらって収益計上した国庫補助金と同額の損金が計上されるので、差し引きプラスマイナスゼロになり、補助金交付時には課税されないことになる。
ただし、機械を減価償却して費用計上する際は、帳簿価額が減額されることで、毎年の減価償却費は通常より低く抑えられるので、結果として課税所得は大きくなり、償却期間を通じて少しずつ多く課税されていく。
こうして補助金には課税しないけどその後の所得で多めに課税していくわけだ。
仕訳例を挙げてみると・・・
国庫補助金1,000の交付を受けて、その補助金と自己資金を合わせて2,000の機械を取得したとする。
(現金)1,000 (国庫補助金収入)1,000
(機械)2,000 (現金)2,000
(機械圧縮損)1,000 (機械)1,000
交付を受けた事業年度に補助金収入1,000と機械圧縮損1,000を計上し、両者は相殺される。
一方、機械は本来の取得価額2,000よりも低い1,000に基づいて減価償却を行うため、通常よりも低い減価償却費の計上となるわけだ。

| 積立金方式
直接減額方式だと、資産の取得価額が正しく表示されないという欠点がある。
これを解消するのが積立金方式だ。
取得した補助金を収益として計上するところは同じだが、資産の帳簿価額を減額するようなことはせず、貸借対照表の純資産の部に補助金相当額を圧縮積立金として計上する。
法人税申告書の別表4で、益金不算入として所得計算で減算して課税されないようにするのである。
こうすると減価償却費は通常の数値を計上できる。
交付を受けた事業年度は、会計上は補助金を相殺する費用の計上は無くても税務の所得計算では無いものとされるので、税金も安くなるわけだ。
なお、減価償却費は税務上は取得価額から積立金相当額を控除した額に基づいて計算する。(会計上は取得価額に基づいて減価償却を行うのでズレが生じる。)
こうすると、直接減額方式と処理結果が同じになる。
仕訳例を挙げると・・・
やはり国庫補助金1,000の交付を受け、その補助金と自己資金を合わせて2,000の機械を買ったとする。
(現金)1,000 (国庫補助金収入)1,000
(機械)2,000 (現金)2,000
(繰越利益剰余金)1,000 (機械圧縮積立金)1,000
圧縮積立金は、純資産の部の利益剰余金を減らしてその分を計上するという、勘定科目の入れ替えみたいな作業を行う。
この圧縮積立金は、取得資産を譲渡したり廃棄して、保有しなくならない限り取り崩しの必要はない。
逆に上記の理由で資産を手放したとき、取り崩して積立金相当額を益金算入する。(補助金が課税される)
| 税効果会計
積立金処理は、実はこれだけでは不完全だ。
正確には税務上は問題ないのだが、会計上はおおいに問題がある。
圧縮積立金は補助金相当額が計上されている。
その補助金を使って資産を購入したわけだが、最終的にその資産を売却する可能性がある。
資産を売却して所得(利益)が生じたら、それは課税されてしまう。
補助金相当額の圧縮積立金を、各事業年度の税引「後」純利益の集合体である利益剰余金の部にそのまま計上するのは正しくないのだ。
ここに補助金相当額に課税されたとして(現実にはされてないけど)圧縮積立金を利益剰余金の一部として計上するのが適切なのである。
仕訳例を挙げると・・
法定実効税率(法人税など現実の企業の税負担分)を40%とすると、先ほどの仕訳は会計上は次のようになる。
(繰越利益剰余金)600 (圧縮積立金)600
(法人税等調整額)400 (繰延税金負債)400
圧縮積立金は適切な数値となって純資産の部へ、課税される分は将来の税負担と考えられるから、繰延税金負債として負債の部に計上される。
この話には続きがあって、当期末以降、対象資産の減価償却に伴い、圧縮積立金と繰延税金負債の取り崩しを並行して行う。
少し分かりにくいが、補助金の交付を受けた当期は、会計上は計上すべき税金は実際の税金より多いので、「損益計算書上費用計上すべき税金」に直さないといけないのである。
会計上も税務上も、最終的には各期で計上する税金の合計は一致するので、会計上の取り崩しはそのための作業だ。
| 終わりに
圧縮記帳の積立金方式は特に分かりにくい。
会計のなかでも、1、2位を争う難解さを誇る「税効果会計」がからんでくるからだ。
気をつけないと、会計なのか税務なのか混乱してしまう。
人生で一度は「快刀乱麻を断つ!」と豪語してみたいが、まだまだですね。