所得税額は、各種所得の金額について損益通算・損失の繰越控除を適用したあとの合計額である「課税標準の合計額」から所得控除額を控除した「課税総所得金額」に、超過累進税率を適用して算出するのが基本である。(税額控除がある場合もある)
所得=期中消費額+期中純資産増加額 と解釈する「包括的所得概念」の考え方だと「課税標準の合計額」=「課税総所得金額」で構わないと思うが、いろんな政策的な配慮によって所得の一部を課税の対象から除いているので一致しない。
所得の一部を課税の対象から除くことを「所得控除」というのである。
・ 所得控除の種類
所得控除は以下の14種類がある。
⒈ 雑損控除
⒉ 医療費控除
⒊ 社会保険料控除
⒋ 小規模企業共済等掛金控除
⒌ 生命保険料控除
⒍ 地震保険料控除
⒎ 寄付金控除
⒏ 障害者控除
⒐ 寡婦(寡夫)控除
⒑ 勤労学生控除
⒒ 配偶者控除
⒓ 配偶者特別控除
⒔ 扶養控除
⒕ 基礎控除
所得控除の数は何個か曖昧になったときは、マンガ家楳図かずおさんのホラーマンガ「14歳(フォーティーン)」を思い出せばよい。
上記の所得控除のうち、雑損控除、医療費控除そして寄付金控除などは年末調整の対象外、確定申告必須である。
今回は寄付金控除についてみてみよう。
| 寄付金控除とは
寄付金控除とは、居住者が2,000円を超える寄附をしたとき、その超える部分の金額と課税標準の合計額の40%といずれか低い金額を所得から控除できる制度である。
ここに課税標準の合計額とは「損益通算」と「損失の繰越控除」適用後の各種所得の金額の合計額をいう。
課税標準の合計額=総所得金額+分離課税の譲渡所得の金額(土地・建物・株式)+山林所得金額+退職所得金額 という構造になっている。
要するにすべての所得の合計額である。
| 寄附金の範囲
寄附金控除の対象となる寄附金を特定寄付金という。
特定寄付金に該当するのは次の通りだ。
① 国または地方公共団体に対する寄付金
⓶ 公益社団法人などに対する寄付金で財務大臣が指定したもの
③ 特定公益増進法人に対する寄付金
④ 認定NPO法人に対する寄付金
⑤ 政党に対する寄付金で公職選挙法により報告されたもの
⑥ 払込み(預金口座などを通じてお金を納入すること)により取得した「特定新規中小会社の株式」の取得に要した金額(1,000万円限度)
などだが、②~⑤については税額控除との選択適用である。
聞き慣れない「特定新規中小会社」とは、いわゆるベンチャー企業のことだ。
ベンチャー企業に出資したら、寄付金控除の対象にするということなのである。
なお寄附は金銭だけでなく現物でもできる。
例えば、私が個人で営む電気屋だとしてパソコンをベンチャー企業に出資(寄附)したら、通常の販売価格を寄付金の額とし、販売価格の70%または取得価額のいずれか大きい額を事業所得の総収入金額とする。
私はベンチャー企業の株式を手に入れるが、その額はパソコン販売価格相当額となる。
| 寄附の文化
世界の大富豪と呼ばれる人達は、たびたび巨額の寄付をする。
現在進行中のコロナウィルス騒動においてもそうである。
しかし日本では寄附はあまり一般的ではないようだ。
これは寄附しても、それがどのように活用されてるのか実体が不明瞭なのが一番の原因だと思う。
NPO法人、日本ファンドレイジング協会によると、日本人の個人寄附の総額は7,756億円(2016年)、一方、アメリカの個人寄附総額は30兆6,664億円であり、名目GDPの寄付の割合は、日本0,14% アメリカ1.44%である。
| 寄附金税額控除
寄付金控除自体は所得税本法の規定だが、他に税額から直接控除できる寄附金税額控除の規定もある。
寄附金税額控除は時限立法「租税特別措置法」の規定である。
配当控除前の所得税額の25%限度に、寄附金額の2,000円を超える部分(寄附金が複数あるときは2,000円から他の寄附金額を控除した残額)に、政党に対するものは30%、他は40%を控除できる。
複数の寄附金がある場合、寄付金総額で課税標準の合計額の40%が限度だ。
通常は、その時の課税総所得金額に対する超過累進税率が、税額控除の率より低いときは、寄附金控除より税額控除の方が有利である。
| まとめ
寄附というのはとても能動的な行為だ。
寄付金控除も寄附金税額控除も受けるためには、能動的な納税行為「確定申告」が必要である。
「寄附」と「確定申告」、互いに能動的な、まさに「絶妙なコンビ」であるといえよう。