貸借対照表における資産は、目の前にある資産だけではなく、将来キャッシュを生み出す資産も含まれる。
私が財務諸表論の勉強をしていたとき、鮮明鮮烈な印象を受けた文言である。
代表的な勘定科目で実験してみよう。
売掛金は回収すると・・・・
(現金預金)〇〇〇 (売掛金)〇〇〇
➡キャッシュをゲット!
投資有価証券は売却すると・・・
(現金預金)〇〇(投資有価証券)〇
(投資有価証券売却益)〇
➡キャッシュをゲット!
建物を売却すると・・・
(現金預金)〇〇 (建物)〇〇〇〇
(減価償却費)〇 (建物売却益)〇
(減価償却累計額)〇〇
➡キャッシュをゲット!
また、減価償却費は損益計算書の販売費・一般管理費に計上されるが、これは間接的に売上獲得に貢献しているとされ、売上は売掛金の発生を伴い売掛金はキャッシュを生み出す。
➡やはりキャッシュをゲット!
ところで、私には一つ謎の資産があった。
「繰延税金資産」である。
テキストの解説を読むと・・・
繰延税金資産は、将来の法人税の支払額を減算する効果を有し、一般的には法人税等の前払額に相当するため、その資産性が認められる。
これを読んだとき、なんとなくしか意味が分からなかったが、受験時代は深く考えずに丸暗記していた。
仕訳してみると
(繰延税金資産)〇〇(法人税等調整額)〇〇
となる。
貸方の法人税等調整額で、損益計算書の法人税等を減額している。
これが解消するときの仕訳が
(法人税等調整額)〇〇(繰延税金資産)〇〇
となり、なんと借方の法人税等調整額で、その期の損益計算書の法人税等を増額している!
将来の法人税の支払額を減額するのに、この処理はおかしくないかと、受験時代は思ったものだ。
解消時の実際の税金を増やして会計上の税金を計上する。逆に当期は現実の税額を減らして会計上の税金を計上している。
これは、当期は会計上の税金に対して現実の税金支払額は過大となるが、将来は会計上の税金に対して現実の税金支払額は過少となるから、税金の前払額に相当するということなのだろう。
試験合格後に調べて分かったのだが、損益計算書の法人税等は、あくまで企業会計のため税金費用である。
(繰延税金資産)○○(法人税等調整額)○○という仕訳は、会計上の利益に対して過大となった法人税等を繰り延べるために、貸借対照表の資産の部に計上しているわけだ。
さて、繰延税金資産は資産計上している以上、キャッシュを生み出すべきであると思う。
ここで繰延税金資産が解消される期の利益に注目だ。
会計上の税引前利益に対して、実際に支払う法人税等以上の税金費用を計上して税引後利益を計上する・・・ということは、現実の法人税等のみ控除後の利益より、株主に支払う配当金というキャッシュの社外流出を減らせて内部留保が増やせるということだ。
内部留保増大はキャッシュの獲得に相当する!
繰延税金資産は資産としての役割を果たしていると言えそうである。